中田裕士と吉田知史の作品"SinkTop"は2004年度のPrix Ars Electronica [the next idea] 部門においてHonorary Mentionを受賞した。そしてGala(オープニングセレモニー、表彰式)にてライブパフォーマンスを行うために2004年9月、Ars Electronica Festivalに招待された。

世界中から集まったメディア関係者の注目が集まる中、栄誉あるGalaの舞台で作品を発表できたこの貴重な体験と、発表者から見たフェスティバルの動向について、ここに報告する。

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Ars Electronica
http://www.aec.at/


国際コンペティション Prix Ars Electronica

Ars Electronica(アルス・エレクトロニカ)は1979年からオーストリアのリンツで開かれている世界最大のメディアアート、デザインの祭典である。会期中、世界中から数多くのメディアアーティストや科学者が集まり、作品展示、コンサート、シンポジウム、ワークショップなど様々なプログラムがリンツ市内の至る所で行われる。
事務局によれば、今年度は28カ国から555人のアーティスト、科学者がフェスティバルに参加し、33カ国から587人のジャーナリストが取材に訪れた。登録者だけでも34,000人の来場者があり、会期中のWebサイトのHit数は4,425,279を数えたということである。

Ars Electronica Festivalに合わせて毎年、国際コンテペティションPrix Ars Electronicaが開かれ、入賞作がフェスティバルの会期中に展示、表彰される。
このコンペティションは以下の7つの部門に分かれており、各部門においてGolden Nica(グランプリ)、Distinction(準グランプリ)、Honorary Mention(準々グランプリ)の作品が選ばれる。

Prix Ars Electronica の部門(2004年度)

  • Computer Animation / Visual Effects
  • Digital Musics
  • Interactive Art
  • Net Vision
  • Digital Communities
  • u19 - freestyle computing
  • [the next idea]

事務局によれば、今年度は世界69カ国から3,341作品の応募があったということだ。

       
 
若手アーティスト、デザイナー、科学者のための部門。
 

SinkTopがHonorary Mentionを受賞した[the next idea]は、19から27歳までのアーティスト、デザイナー、科学者の発掘と育成を目的に、2004年に新設された部門である。

Golden Nica受賞者には賞金7,500ユーロとともに、Ars Electronica Future lab.の客員研究員として3ヶ月間の滞在研究、制作を行う権利が与えられる。

       
 

中田が注目した2004年度の受賞作品/プロジェクトを以下に紹介する。


Creative Commons
www.creativecommons.org
(Net Vision Golden Nica)


Amanda Parkes, Hayes Raffle; MIT Media Lab
"Topobo"
(Interactive Art Honorary Mention)


James Auger, Jimmy Loizeau, Stefan Agamanolis; Media Lab Europe
"Iso-phone"
(Interactive Art Honorary Mention)


宮島達男, 立花ハジメ
"1000 Deathclock in Paris"
(Interactive Art Honorary Mention)

Andrew Stanton, Pixar Animation Studios
"Finding Nemo"
(Computer Animation / Visual Effects Honorary Mention)

 

2004年度のGolden Nica受賞作品/プロジェクトは以下の通り。

Computer Animation / Visual Effects
Chris Landreth (Canada):
"Ryan"

Digital Musics
Thomas Koner (Germany):
"Banlieue du Vide"

Interactive Art
Mark Hansen, Ben Rubin (USA):
"Listening Post"

Net Vision
Creative Commons (Venezuela / USA): "www.creativecommons.org"

Digital Communities
Wikipedia (USA):
"www.wikipedia.org"

The World Starts With Me (Netherlands / Uganda):
"www.theworldstarts.org"

u19 - freestyle computing
Thomas Winkler (Austria):
"GPS::Tron"

[the next idea]
神里亜樹雄, 柴田知司, 真下武久(Japan):
"Moony" - Sensitive Smoke Project

 

       
 

 

 

SinkTopは家庭内環境における情報と人間とのかかわりについて考察する試みである。

「最新の技術」は人々の生活にさまざまな変化をもたらす。すべてがよいことばかりであるとは限らないのだが、よい面ばかりが強調され、人々は物事の本質を見失ってしまう。

今日、我々は実際に家庭内環境の情報化に直面している。本来ならば手わざの支配するキッチンすらも、その標的となっている。

情報と人との関係は、ヒューマンインタフェースによって保たれているが、今日のインタフェースデザインは、内部の機械的構造を隠蔽し、ある種の演出ともいうべき表現をもって理解や動機付けを促す傾向にある。

そのような人間の認知モデルと内部構造が乖離した状況においては、たとえば水道の蛇口が蛇口の形をしていなければならない理由はない。様々な異なる種類の情報を操作する汎用のヒューマンインタフェースデバイスとして、GUIとマウスの組み合わせ(WIMPシステム)を置き換えるものは未だ現れていない。それならば、将来的にマウスがキッチンに持ち込まれる可能性もあるのではないか。

家庭内環境における情報のあるべき形とは、コンピュータ上で扱われる情報とは性質の異なるものだ。だが、現在の家庭内情報化の取り組みを鑑みると、それに気付いていないように思える。仮に気付いたとしても、テクノロジーとは、常に最先端でなければならないという宿命を背負っている。その流れに逆らうことはできないのだろう。

このようなコンセプトに基づき、我々は水道のひねり口を排除し、マウスの操作によってのみ水を出すことのできる、コンピュータ内蔵流し台「SinkTop」を制作した。
SinkTopはコンピュータの特性を生かし、遠隔地からネットワーク越しに水を出したり、ほかの電化製品を操作することができる。操作の履歴はすべてログデータとして記録されているため、細やかな管理が可能である。もしもメーカがこの流し台を売り出すとしたら、おそらく便利な面しか宣伝しないだろう。

これらは一見便利なようにも思えるが、当然のことながら、遠隔で操作してもその場にいなければ水を飲むことも、料理を食べることもできない。また、コンピュータ使用時のわずらわしい作法をも引きずっており、例えばIDとパスワードによるログインがその都度必要であったり、悪意ある侵入者によって意図せぬ動作をしたり、ときにはコンピュータウィルスに感染してクラッシュすることもある。

情報機器におけるインタフェースデザインと産業構造が潜在的に抱える問題が、メディアとテクノロジーに関わる世界トップレベルの人々が集うArs Electronicaにおいてどう考えられているのか、またこの逆説的な表現がどのような評価を受けるのか、非常に興味があった。

       
 


Horst Hortner
Ars Electronica Center Team Member, Prix Ars Electronica Jury Member

 

 

今回の[the next idea]部門の審査員を務めたHorst Hortner氏からは、SinkTopについてこのようなコメントをいただいた。

SinkTop by Yuji Nakada and Tomofumi Yoshida (J), a very successful satire on the latest pervasive computing trends and how they are rapidly spreading. This entry questions the efficiency of diverse technological achievements.

SinkTopを制作した意図をちゃんと理解していることに正直なところ、驚いた。ただのバカ作品という認識ではなかったことがとてもうれしかった。
インタフェースをどうデザインするかという方法論については、共通の課題であるようだ。SinkTopによる問題提起は、目論見通りにいったといえるだろう。

       

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(文責:中田裕士)