中田裕士と吉田知史の作品"SinkTop"は2004年度のPrix Ars Electronica [the next idea] 部門においてHonorary Mentionを受賞した。そしてGala(オープニングセレモニー、表彰式)にてライブパフォーマンスを行うために2004年9月、Ars Electronica Festivalに招待された

世界中から集まったメディア関係者の注目が集まる中、栄誉あるGalaの舞台で作品を発表できたこの貴重な体験と、発表者から見たフェスティバルの動向について、ここに報告する。

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SinkTopの受賞を伝える[the next idea]のサイト

Ars Electronica Festivalまで残りおよそ1ヶ月。SinkTop受賞の知らせが公式サイトに掲載されてから2ヶ月が経過したが、展示などについての連絡が一切こない。
このまま黙殺されるのではないかと不安になった我々は、Ars Electronica事務局宛にメールを書いた。

  • SinkTopは賞をもらったが、展示はさせてもらえないのか。
  • 展示できるなら、このような形態を考えているので見てほしい。

このような内容の文章に、展示計画書(設置に必要な面積、環境、インターネットを介したインタラクティブ展示のプランなど)を添付した。

果たしてどんな返事が来るか、あるいは来ないのか。すがるような思いだった。


会場のBrucknerhausは、権威ある音楽ホールである。


2003年Distinction賞を受賞した明和電機さんも同じステージでライブを行った。

2日後、担当者から返ってきたメールは、目を疑うような内容であった。

なんとGalaで、SinkTopにライブパフォーマンスを行ってほしいというのだ。Galaとは、Ars Electronica Festivalの事実上のオープニングイベントであり、Prix Ars Electronicaの表彰式でもある式のことだ。
会場となるBrucknerhausは権威ある音楽ホールであり、日本人でここで演奏したことがある人はあまりいない。

これはまさに昨年度のArs Electronicaで、明和電機が務めた重要な役である。 我々のような学生にそんな大事な役を依頼するなんてにわかには信じがたい。しかも準備期間は1ヶ月しかない。

突然の依頼に戸惑いながらも、やるしかないと決意を固めた我々は、申し出をありがたく受けるという旨を先方に伝え、パフォーマンスの案を練ることにした。

       
 
オリジナルのSinkTopは普通の流し台サイズだ。
 

オリジナル版のSinkTopは普通の家庭にある流し台そのままの大きさだ。今から船便でオーストリアまで送ったのでは間に合わないし、なにしろ費用がかかりすぎる。
そこで我々は、手で持ち運べる小型のSinkTop、"SinkTop PP"を新たに制作し、携行品として飛行機で現地まで持っていくことにした。

コンセプトは「世界最小、最軽量のGUI搭載キッチンシンク」である。
これは、電機メーカが他社との差別化を図るためによく使う「世界最小、最軽量」の売り文句を意識している。

また、せっかくのライブパフォーマンスである。SinkTopに備わっているネットワーク機能により、不特定多数のオーディエンスが水道や、SinkTopに接続されたジュースミキサーなど多数の電化製品をリアルタイムにコントロールしてしまう状況が実現できる。

担当者からの、ドイツ語っぽいスペルミス混じりの英文メールによれば、GalaはORF(日本でいうところのNHKにあたる放送局)によってヨーロッパ全土にテレビ放送されるということだ。
テレビでURLを放送し、視聴者がPCや携帯電話でアクセスできるようにすれば、ステージは大変なことになるのではないか。

このようなアイデアを絵コンテにまとめて、担当者にメールで送った。

       
 


主催者側は、25周年ということをかなり意識している様子だった。今年のテーマは"TIMESHIFT"。


絵コンテの最終稿は、11ページもの分量になった。

 

重要な式典だけあって、向こうからの提案や要望、技術的な理由による制約は多かった。

  • Galaでは、Ars Electoronicaの25周年を祝い、地元の政治家などの偉い人がスピーチを行う。 そのスピーチとスピーチの間に短いパフォーマンスを行い、次のVIPの名前をアナウンスしてから退場してほしい。
  • パフォーマンスは全部で4回、それぞれ別の内容で行ってほしい。
  • 時間は4回合わせて6分30秒から7分30秒の間で行ってほしい。
  • Ars Electoronicaの25周年にちなんで、コントロールするジュースミキサーの数は25台としてはどうか。
  • オリジナル版のビデオにあった、植物に水をやるシーンはぜひともやってもらいたい。
  • 最後のパフォーマンスでは、暗転の後、Ars Electronicaの25回目の誕生日を祝うバースデーケーキを登場させたい。
  • Ars Electronicaの誕生を祝うような台詞をいれてほしい。
  • 水道管をステージまでひっぱる必要はあるか。

などなど。
何度かメールをやり取りし、Ars Electronicaからの提案や要望も取り入れながら、私と吉田は深夜のファミレスに通いつめ、案を練りなおしていった。

       
 


おびただしい数の電子部品をはんだ付けする吉田。


WebからSinkTopを制御するためのプログラムを書く中田。

 

ただでさえ時間がないというのに、いちいち向こうに確認を取りながらではないと動けないため、システムの開発はなかなか進めることができなかった。

また、技術的な不安な面もあった。日本と違い、オーストリア国内のコンセントの電圧は220V。このような高圧電流を制御した経験など、当然ない。220Vに耐える電子部品を探すにも一苦労である。

水道と25台のジュースミキサーと数台の家電製品をコントロールするためのユニットにはおびただしい数の電子部品、コネクタをはんだ付けしなければならない。すべて手作業だ。

ネットワーク周辺のプログラミングはオーストリア国内の携帯電話事情や、Brucknerhausにおけるネットワーク構成、そしてステージ上の巨大スクリーンへのビジュアライゼーションを考慮に入れた上で構築しなければならなかった。

我々は寝食を忘れ、出国の直前まで作業に没頭した。

       

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(文責:中田裕士)